5月になると,シロツメクサがあちらこちらで咲き出します.
最近はガーデン内に咲くことはほとんどありませんが,丈夫なので一時期とても増えてしまい困ったことがあります.花の匂いはほの甘く,先日スイートピーの匂いを嗅いだ時にシロツメクサに似ているなとふと感じましたが,両方ともマメ科なので共通した匂いの成分があるのかもしれません.
そういえば,かつて院内報にシロツメクサをテーマとした文章を書いたことがあったのをふと思い出しましたので,当時文章といっしょに掲載した花のイラストも併せてここに再掲します.
12の花の12の話
5月 シロツメクサ〈White clover / Trifolium repens L.〉
もう二十年以上も前,草の青い匂いが強まる季節に僕らは野原を駆け回っていた.ミツバチや蝶が舞い飛ぶシロツメクサの花畑では,女の子たちがブレスレットや冠を拵えている.それは陽射しの穏やかな日で,男の子たちはサッカーボールを追いかけるのに夢中になり,女の子たちはきれいな冠を頭に載せ,まるでお姫様か花嫁さんになった気分ではしゃいでいる.歳を重ねたいまも,きっとその風景は変わらない.女の子はシロツメクサの冠の代わりに,きらきらと輝くティアラを載せて本物の花嫁さんになり,どこかで誰かと幸せに暮らしているだろう.大人になった男の子たちは,それぞれいったい何を追いかけているだろうか.
僕はまだあの野原に立っていて,四つ葉のクローバーを探している.時には花の匂いをかいでみたり,流れる雲を眺めたり,雨に打たれたり,昼寝をしながら,誰かに渡そうと探している.広い野原のなかで四つ葉を探すことは,淡々とした毎日の暮らしの中に喜びを見出すことに似ていて,そこでみつけた喜びや楽しみ,美しい瞬間はできるだけほかの誰かと共有したいと思う.とりわけそれが,難多き誰かの人生に穏やかなひとときをもたらすものならば,それ以上は望むべくもない.
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